介護事故裁判例:誤嚥(ごえん)

1.食事介助時の誤嚥
(概要)
特別養護老人ホームに入所していた利用者が、食事介助を受けていた際に、誤嚥により摂取物が気管に詰まり呼吸困難となり、病院に搬送されるも、意識が戻らないまま亡くなった事案(松山地方裁判所平成20年2月18日判決)。

(裁判所の判断要旨)
医師から、食事の飲み込みが悪くなってきており、嚥下障害の進行があるとの説明がなされていたこと、実際に食事の際にムセ込む状態が続いていたこと等から、施設側には、食事介助について、遵守すべき点を確認し、職員に教育、指導すべき注意義務があったと認め、本件施設は教育、指導を怠り、介助者自身、遵守すべき事項を行っていなかったとして、施設側の責任を認めた。

(認容額)※誤嚥事故関係の主な認容額
①誤嚥事故による利用者の死亡慰謝料:900万円(但し、原告は相続人2名のうち1名のみだったため、認定額1800万円の1/2)
②相続人固有の慰謝料:200万円
★弁護士からのコメント
利用者本人の事故前の嚥下機能や誤嚥事故を引き起こした食事介助方法等の状況の捕捉・把握がポイントです。
2.利用者自身による食事中(介助なし)の誤嚥
(概要)
介護付有料老人ホームに入居していた利用者が、居室で摂ったロールパンを誤嚥し、窒息死したという事案(大阪高等裁判所平成25年5月22日判決)。

(裁判所の判断要旨)
入居前の入院先医師からの誤嚥等に関する注意喚起の存在、利用者に居室で食事させ、異常があっても気付きにくかったという状況等から、施設側には、ナースコールを利用者の手元に置く、食事中の見回りを頻回にすべき等の注意義務があったとし、本件施設はこれを怠ったとして、施設側の責任を認めた。

(認容額)
1548万3620円
※内訳:死亡慰謝料1000万円、相続人固有の慰謝料250万円、葬儀費用156万6430円、等。
★弁護士からのコメント
本事案は、1審では利用者側の請求が棄却されており、介護施設における利用者の嚥下機能の認識の評価が判断の分かれ目となったと考えられます。
3.利用者自身による食事中(見守りあり)の誤嚥
(概要)
介護老人保健施設に入所していたパーキンソン病に罹患していた利用者が、提供された刺身を誤嚥して窒息し、その後死亡したという事案(水戸地方裁判所平成23年6月16日判決)。

(裁判所の判断要旨)
刺身の大きさ(健常人用とそれほど異ならない)、施設側に嚥下への配慮が特段認められないこと、刺身は嚥下能力が劣る高齢の入居者に提供するのに適した食物とは言い難いこと、本件被害者の嚥下機能の低下、誤嚥の危険性からすれば、施設側は誤嚥の危険性が高いことを十分予測できたとして、本件施設が被害者に対して刺身を常食で提供したことは介護契約上の安全配慮義務違反、過失が認められるとして、施設側の責任を認めた。

(認容額)
2203万5681円
※内訳:逸失利益285万5682円、死亡慰謝料1500万円、葬儀費用150万円等。
★弁護士からのコメント
窒息を引き起こした食物の大きさ・性状もポイントとなります。

 

 

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